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我が家の暖房設備
2008年に建てた我が家は、電気こそ通っていますが暖房用のガスとオイルはありません。
家の暖房をどうまかなっているのかというと、リビングルームにある大型のストーブを使っています。
薪ストーブは見た目もよくそれだけで絵になりますが、効率的に熱を部屋へ放ってくれる優れもので、とても実用的かつ環境にも優しいのです。
環境問題、エネルギー問題への関心が高まるアイルランドで、ストーブは地方を中心に人気のある暖房器具ではないでしょうか。
更に、我が家のストーブには内部にボイラーが組み込まれています。ストーブが熱くなるとこのボイラーが熱を持ち、2階にあるお湯用タンクを温めてくれます。このタンクは保温性が高く、翌日の朝になっても前日の夜のストーブの熱でシャワーを浴びることができます。
ボイラーが温めているのは、蛇口用のお湯だけではありません。
各寝室、バスルームなどの壁際に設置されているラジエーターをも温めてくれます。
アイルランドの一般家庭に見られるラジエーター。
我が家のような新しい家には大型のタンクが設置されていることが多く、2階にある保温性にも優れたタンクには600リットル分のお湯が入ります。
我が家のキッチンにある、現役のレンジ(Range)。中で薪などを燃やして部屋を温めるだけでなく、調理もでき、更にはオーブンも備わっているという優れもの。1960年代のイギリス製。
アイリッシュコテージの昔ながらの暖炉。ここでパンを焼いたり鍋を使って調理していた
我が家の場合は、冬になってストーブを使うようになると、ストーブに内蔵されたボイラーの火力でお湯を作ります。
では、ストーブをつけない春や夏はどうしているのか。
ソーラーパネルです。
自宅の屋根に設置された、チューブ型のソーラーパネル
家を建てる時、夫と話してまず決めたのが、ソーラーパネルの設置でした。
初期費用はかかっても、私たちにできる範囲で少しでも環境への負担を減らしたい。太陽光という、パネルさえあれば誰でも自由に得られるエネルギーを使わない手はありません。
アイルランドで見かけるソーラーパネルは、電力を作るのではなく、もっぱらお湯を作るのが専門です。
アイルランドの暖房設備はお湯を使うので、そのお湯を作ってくれるソーラーパネルの利用は理に適っているのです。
そんなわけで、我が家ではほぼ一年中、いつでも使えるお湯があります。
ソーラーパネルは、日の短い冬を除いて一年の半分以上の期間、活躍してくれます。
特にアイルランドの夏は日が長く、夜の9時でも外が明るく、ソーラーパネルは晴れていれば一日に10時間以上動きます。
面白いのは、ソーラーパネルのある暮らしによって、お天気とお風呂の関係がより直結していることです。
「昨日はずっと晴れていたから、お湯がたくさんあるはず。よし、子どもをお風呂に入れちゃおう!」という具合に、お風呂のタイミングはお天気に左右されるという、面白い構図なのです。
そして、曇りの日でお湯が足りない時には「ま、いっか。明日は晴れるみたいだし、シャワーは明日にしよう」とのんびり考えます。そんなのんびりとした暮らしのスタイルも、私にとっては贅沢なものです。
曇りの日が多いアイルランドでこれだけ活躍するのですから、お天気に恵まれた日本なら冬場も含め、このソーラーパネルを使って毎日のようにお湯が作れるのではないでしょうか。
ストーブで燃やす燃料についても、触れておきたいと思います。
クレア州西部にもよく見られる風景
アイルランド、とりわけ地方においては今でも泥炭(Turf ターフ)と呼ばれる燃料を見かけます。
泥炭とは、上の写真のようなアイルランドの泥炭地を切り崩して乾燥させたもののことです。湿地や沼地などの多いアイルランドには、分解されなかった植物遺骸が堆積した繊維質の泥炭層が、中部、西部を中心に数多く点在しています。
手作業による泥炭の切り出し
手軽に入手できる泥炭は、昔から人々の貴重な燃料でした。薪や石炭、ピートなどの豊富な燃料が出回っている今では、泥炭はアイルランドの貧困や地方での厳しい暮らしと重ねて語られることが多いようです。
この泥炭については、近年「大切な自然環境の破壊につながる」という理由から議論の絶えない問題となっています。
環境グループなどは、地方の農夫らによる泥炭の切り崩しをやめるよう求めていますが、地域住民からは反対の声が多いのです。
そうでなくとも、泥炭の切り出し作業は手間もかかるため泥炭の需要は減り続けており、泥炭地のオーナーたちは土地を分割して個人に貸し出すなどの対策をとっているようです。
今でも、夏の終わりごろになると荷台いっぱいに泥炭を積んだ大型のトラックを見かけます。
薪は自分たちの土地から出るものだけでは間に合わないので、薪は、毎年地元で薪を売る農家の方から購入しています。
納屋で出番を待つ薪。薪割りも冬場の大切な仕事です
我が家の3分の1の土地には、国の植林事業を利用してノルウェイ楓と栗の木が植わっています。おそらく400本ほどの木があり、まるで小さな林のようです。この木が大きくなってくれば、もう燃料としての薪を購入する必要がなくなり、自分たちの土地の中で燃料のサイクルをすることができます。
木は、ガスやオイルといった限られた資源とは違い、私たち人間の手によって繰り返し再生させることができます。この点がアイルランドでも今注目されており、業者はもちろんのこと私たちのように自分の土地に木をたくさん植えて将来の燃料とする個人宅が増えているのです。
日本にいた頃は灯油ストーブ、電気ストーブ、ガスストーブでしたが、こちらに来てからは身近な資源を使って実際に火を燃やして暖房します。
マッチと新聞紙を使って火をおこすだけでも、最初は不慣れで失敗ばかりでした。
インスタントにあたたまる暖房ではありませんし、手間もかかり、手も汚れます。それでも薪の香りや火のある暮らしは、アイルランドの田舎では一般的で、誰もが愛するもののようです。
燃え盛る火を見つめているだけで気持ちがいいものですし、煙突から白い煙が出ている様子にも風情があります。
最近では、アイルランドでもリモコンで電源を入れると火がつく電気またはガスの暖炉、ストーブなどが人口の集中する町を中心に増えています。
お年寄りにとっては、毎日の日課としての暖炉やストーブの管理は大変であり、こうした暖房機器はさまざまな現場で活躍しているようです。
それでもみな口を揃えて言うのが「電気やガスのストーブは味気ない」ということです。本来、暖炉のそばというのは家族がくつろぐためのスペースであり、そこには本物の火がいつも中心にあったのでしょう。
火をつけて暖をとる、という考え方がこの国には昔からあるのだな、と感じます。
エネルギーの問題は、地域や国任せではなかなか前進しないものです。
自分に今できること。身の回りでまず簡単に始められること。それがどんなに些細なことであっても、みんなで実践すれば社会にとってはものすごい変化をもたらします。
まずは私たち一人ひとりの意識を高めることから、すべてが始まるのではないでしょうか。